天体写真のキャリブレーションとノイズの伝搬(ver.0.90)

誤差の伝搬

加算した画像のノイズの大きさ

複数の画像を加算した結果のノイズの大きさと,もとの画像のノイズの大きさの関係を考えたい。まず簡単のために2枚の画像 \(x_a,~x_b\) を考える。加算した画像のノイズの大きさは, \(x_a+x_b\) の標準偏差で与えられるから,(2)式を用いて、
\begin{align}
(\text{ノイズの大きさ})^2=&\langle(x_a+x_b)^2\rangle -\langle x_a+x_b\rangle ^2\\ =&\langle{x_a}^2+2x_ax_b+{x_b}^2\rangle -\langle x_a+x_b\rangle ^2
\end{align}
ここで「和をとってから平均すること」と「平均してから和を取ること」は等しいので,うえの2行目の式は
$$
\langle{x_a}^2\rangle +2\langle x_ax_b\rangle +\langle {x_b}^2\rangle -\left({\langle x_a\rangle}^2 + 2\langle x_a\rangle\langle x_b\rangle + {\langle x_b\rangle}^2\right)
$$
と変形できる。さらに,2枚の画像に含まれるノイズがお互いに独立(*1)であるなら,
$$
\langle x_ax_b\rangle=\langle x_a\rangle\langle x_b\rangle
$$
であることが(1)式から証明できるので,結局
\begin{align}
\text{(ノイズの大きさ)}^2 &=\left(\langle{x_a}^2\rangle-\langle{x_a}\rangle^2\right)+\left(\langle{x_b}^2\rangle-\langle{x_b}\rangle^2\right)\\
&\equiv{\sigma_a}^2+{\sigma_b}^2
\end{align}
を得る。

*1 ノイズが独立とは?
ある画像のノイズ値と別の画像のノイズ値が全く関係なく決まる状態のことを呼ぶ。反対に、それぞれの画像のノイズ値がお互いに影響を及ぼし合うような場合、ノイズが相関をもつという。もしx,yの二つの画像のノイズに相関があるなら、(1)式に表れた画像がxという輝度を持つ確率は P(x,y)の形でxとyの両方に依存する。ノイズが独立であれば、一方の画像が輝度xをもち、もう一方の画像がyを持つ確率はP(x)P(y)となる。

以上から,2枚の画像を加算したとき,そのノイズの大きさは
$$
\text{(ノイズの大きさ)}=\sqrt{ {\sigma_a}^2+{\sigma_b}^2 }
$$
と,それぞれの画像の分散の和の平方根で与えられることがわかった。
一般的に \(n\) 枚の画像があり,それぞれの分散が \({\sigma_1}^2, {\sigma_2}^2,\cdots{\sigma_n}^2\) である場合に,
これらを全て加算して得られる画像のノイズの大きさは
$$
\sqrt{{\sigma_1}^2+{\sigma_2}^2+\cdots+{\sigma_n}^2}
$$
となる。特に単純な場合として,全ての画像の分散が等しく、値 \({\sigma}^2\) を持つ場合は,加算した画像のノイズの大きさは \(\sqrt{n}\sigma\) である。つまり加算によってノイズは増える

練習問題:減算した画像のノイズの大きさを,\(x_a-x_b\) の標準偏差を計算することで求め,結果が加算と同じであることを確かめよ。

誤差の伝搬法則

上では加算における誤差を考えたが、もっと一般的な演算によって得られたデータの誤差が、元のデータでどのようにあらわされるかを考える。つまり、二枚の画像 \(x,~y\) があって、その平均輝度 \(\langle x \rangle,\langle y\rangle\)と、分散 \(\sigma_x,\sigma_y\) がわかっているとき
$$
z=f(x,y)
$$
と表される \(z\) の分散がどうなるかを求めたい。

\(x, y\) がもつノイズを \(\Delta x, \Delta y\) とするとこれらの間には
$$
x=\langle x \rangle + \Delta x\\
y=\langle y \rangle + \Delta y
$$
という関係がある。これを \(z=f(x,y)\) に代入し,ノイズが小さいとしてテイラー展開の1次までを実行すれば
\begin{align}
z&=f\big(\langle x \rangle, \langle y \rangle\big)+\frac{\partial f\big(\langle x \rangle, \langle y \rangle\big)}{\partial \langle x \rangle}\Delta x+\frac{\partial f\big(\langle x \rangle,\langle y \rangle\big)}{\partial \langle y \rangle}\Delta y
\end{align}
ここで \(f\big(\langle x \rangle, \langle y \rangle\big)=\langle z\rangle\)であることに留意すれば,上の式は次のように整理できる。
$$
z-\langle z\rangle=\frac{\partial f\big(\langle x \rangle, \langle y \rangle\big)}{\partial \langle x \rangle}\big(x-\langle x\rangle\big)+\frac{\partial f\big(\langle x \rangle,\langle y \rangle\big)}{\partial \langle y \rangle}\big(y-\langle y\rangle\big)
$$
最後に,この両辺を2乗して全体の平均を取る(\(\langle\)と\(\rangle\)で挟む)。クロスタームの \( \langle(x-\langle x \rangle)(y-\langle y \rangle)\rangle=0\) になるので,
$$
{\sigma_z}^2 = \left(\frac{\partial f\big(\langle x \rangle, \langle y \rangle\big)}{\partial \langle x \rangle}\right)^2{\sigma_x}^2+\left(\frac{\partial f\big(\langle x \rangle,\langle y \rangle\big)}{\partial \langle y \rangle}\right)^2{\sigma_y}^2~~~~~~~(3)
$$
これは誤差の伝搬法則と呼ばれる。誤差が平均輝度に対して小さい場合のみ使える式であることに注意。たとえばダーク画像に対してこの式を使うのはキケンである。この関係は,あとでフラット除算のノイズを評価する時に使う。

以上で得られた結果をもとに,実際の天体写真のキャリブレーションで行われる加算平均やダーク減算,フラット除算について,誤差の伝搬を考えよう。

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