はじめに
こんばんわ、だいこもんです。
Vixen VSD90ssは、Vixen社のフラッグシップの屈折望遠鏡です。今回、担当者さんのご厚意で、星沼会としてしばらくお借りすることができました。メンバーのAramisさん、ぐらすのすちくんとわたって、6月上旬まで宮城県名取市の私の手元にありました。
屈折式の望遠鏡からは反射式にはない重厚感を感じます。中身が詰まってずっしり重い感じ。
フードはねじ込み式で着脱可能になっています。レンズは5枚玉設計だそうです。
先行のAramisさんのレビューやSNSで見つかる作例をみても、これは「約束された鏡筒」の印象です。結果は見えている感じもするのですけど、僭越ながら、私だいこもんも、使用感などをレビューしたいと思います。
まずは結果から
撮影日は6月11日、撮影場所は、標高1600mの蔵王山刈田リフト駐車場です。星沼会の丹羽さんから借りているASI6200mcを装着して撮影しました。曇りがちな夜で、総露光時間は100分しかとれませんでしたが、このような結果でございます:
Date: 2024-6-11
Location: Mt. Zao, Yamagata
Camera: ASI6200mc
Lens: Vixen VSD90ss
Exposure: 300s x 20f (total 105min)
Processing: Pixinsight
主な場所を切り出してみてみます。まずはM16の中心部↓
次にM17の中心部↓
右下部分↓
左上部分↓
これら「作品」では、若干ガイドエラーもあったためBXTを使っています。素のデータを見たいマニアな方は、以下読み進めてください^^
使用感など
ピント合わせ
VSD90SSはZWOのEAF装置が取り付けられるようになっています。ところがだいこもんはEAFの使い方が分からないので、バーティノフマスクでピントを出しました。下はアークトゥルスでの回折像です(カメラはフルサイズのASI6200MC)。
別売りで取り付け可能なデュアルスピードフォーカサーは、今回は使ってません。素でラックピニオンを動かして追い込みました。調整の難しさはF4のε200と同じくらいの印象で、デュアルスピードフォーカサーが無くても大丈夫と感じました。(ただし、だいこもんは、指先の器用さ偏差値70はあると自負してます。)
光量がとってもフラット
実は撮影当日、フラットフレームの撮影をカメラの結露で失敗してしまいました。そのため先ずは前処理でフラット補正を行わす、ダーク減算だけで実行しました。
下は前処理後のデータをBackground Neutrizationで色を調整し、STFで仮ストレッチした直後ものです。フラット補正無しなのに周辺減光が気にならないのは驚きました。
こちらは中心と周辺512pxの切り出しです
今回はフラット補正なしで上手く行きましたが、いつも必要ないとは言い切れません。淡い分子雲などをあぶりだすような場合や、スカイに光害の成分が強い都市部などでの撮影ではさすがにフラット補正が必要だろうと思います。
暗い空の下に出かけて、明るい対象を気楽に撮影するような場合なら、VSD90SSでフラット補正を省略したお気楽処理でも十分な結果が得られそうです。
BXTの効きぐあい
VSD90SSで撮影したマルカリアンチェーンの小銀河がすでに十分に解像していて、BXTの効果がそれほど表れないという、Aramisさんの記事がありました。
だいこもんの撮影結果で試してみました。パラメータは
Sharpen Stars=0.0
Sharpen Nonstellar=0.5
AutomaticPSF=on
としています。以下はM16とM17の中心部での比較画像です:
どちらもある程度の効果は出ているようでした。
BXTは、シーイングの状態や撮影のガイドが悪い場合に補正が強く働くはずですし、露光が足りなくてノイズが多いとあまり強く効かないようです。今回のだいこもんの撮影ではガイドエラーが少しありました。
まとめ
撮影した元データが優れているほど、後処理でのストレッチやお化粧が楽になるものです。今回の撮影データがまさにそうでした。軽くストレッチをしたら十分に美しい結果が出力されて、いつもやっている細かな試行錯誤をする必要を感じませんでした。おかげで、普段なら数時間かかるストレッチとレタッチが30分くらいで終わってしまったのでした。
つぎに私事になりますけど、だいこもんはこれまで、RASA11”やSharpStar15028HNTのような明るい反射鏡筒にAPS-Cくらいのセンサーを取り付けて撮影をしてきました。
「時間の限られる遠征撮影で良い結果を得るには、とにかく明るい光学系をもちいることだ」
と考えていたからです。しかしながら明るい反射はトレードオフで扱いが難しく、とくにRASA11”では、エラーのない画像を得るのに随分と時間がかかりました。APS-Cやフォーサーズでそれですから、これらの鏡筒にフルサイズセンサーを取り付けるとなると、毎回の撮影にかなり神経を使うことになります。(同時にそれが撮影の醍醐味になるという面もあります)
一方でVSD90SSはF5.5で、どちらかというと暗い部類の光学系です。その代わり、すでに書いたように、周辺まで光量が一定でスポットダイアグラムも小さく、ある程度のスケアリングエラーは吸収してくれます(現に、上に掲載したバーティノフマスクの星像をみると若干のスケアリングエラーがあったことが分かりますが、星像への影響は感じませんでした)。フルサイズのセンサーを取り付けてもいつも安定した結果を出力してくれそうです。
APS-Cとフルサイズの面積比は2倍強。APS-Cの3枚モザイクくらいで得られる写野を、フルサイズなら一発で撮影できるというのはやはり大きいです。そして大きなセンサーでの撮影は、相対的に星が小さくなる、ノイズが目立たなくなるなど、集める光量を超える効果があります。
以上の文脈で、VSD90SSにフルサイズのASI6200MCを取り付けた撮影システムは、現時点(2024年6月)でのひとつの究極と言ってよいだろうと思っています。